起 原文
念頭起處 纔覺向欲路上去 便挽従理路上来
一起便覺 一覺便転
此是転禍為福 起死回生的関頭
切莫輕易放過
念頭起こる処、わずかに欲路上に向かって去ることを覚らば、すなわち挽いて理路上より来たせ
一たび起こってすなわち覚り、一たび覚ってすなわち転ず
此れは是禍を転じて福と為し、死を起こして生を回す的の関頭なり
切に軽易に放過することなかれ
念頭、一念のこと;欲路、私欲の方面の路;挽いて、引き戻すこと;理路、道理に叶った方面の路;関頭、関所、関門、肝要な境目
承 意訳
何かを実行しようと思ったときに、それが少しでも私利私欲の方向に向かったと気づいたならば、すぐに道理にかなった方向に修正しましょう
一念が起こったときに、その非を覚ったならば、すぐに方向転換するという一覚一転
この考えは「禍転じて福と為す」、「起死回生(死にかかった者を起こして生に回す)」とうような重要な分かれ目です
深く心に留め、軽く考えてはいけません
転 別視点
この段落では、現代の日本において馴染みのある2つの諺が引用されています
「転禍為福(禍転じて福と為す)」は、史記の蘇秦列伝にそのオリジナルがあります。史記は前漢の司馬遷(BC145-87年)がまとめた歴史書で、この諺の意味は「敗北(禍)しても、それを深く反省・考察することによって次の勝利(福)につながるようにする」ということです。
「起死回生」の「起死」は同じく史記に名医が瀕死の人々を救う場面で「死人を生かした」ところがオリジナルとされます。「回生」は唐(618-907年)の時代以前の言葉で「生き返る」という意味です。
この2つのオリジナルは、提示した時代よりもさらに古い時代の可能性はあります。現代でも使われるくらい普遍的な事象なので、記録が残っていない時代にも存在した可能性が十分あると考えます。
結 まとめ
何かを実行しようと思ったときに、それが少しでも私利私欲の方向に向かったと気づいたならば、すぐに道理にかなった方向に修正しましょう。間違いに気づいたならば、すぐに方向を修正する勇気が大切です。