起 原文
欹器以滿覆 撲滿以空全
故君子寧居無不居有 寧處缼不處完
欹器は満を以て覆り、撲満は空を以て全し
故に君子は寧ろ無に居て有に居らず、缼に処して完に処せず
欹器(いき)=「宥坐の器」(ゆうざのき)、水を入れる容器で、水が空っぽのときは傾き、半分ほど入れるとまっすぐ立ち、満杯にするとひっくりかえるという;撲満(ぼくまん)、土製の器で、上部に狭い口があり、お金を入れるもの、貯金箱と同じ;缼、欠けたところ、不完全なところ
承 意訳
欹器という器は、満タンにするとひっくり返るので満タンにしてはいけませんし、撲満は空の状態で初めて貯金箱としての役割を全うします
そのような道理で、君子のような指導的立場の者は無の境地に居ながら物欲を持たず(物欲を持ちすぎるとひっくり返ります)、欠けた状態を良しとして完全を求めてはいけません(中身が完全に満タンになると貯金箱の役割を果たせません)
転 別視点
欹器とは、ぶら下げた容器で、中身が空のときは傾いた状態で、半分くらいまで水を入れた状態ではまっすぐに立った状態に、そして満タンになるとこぼれます。日本庭園にある竹筒に水が満ちるとカラーンと音のする「ししおどし」と同じ原理です。撲満は、貯金箱のような器で、満タンになると割られてしまいます。
通常のお皿やお椀とは異なる容器を見ながら、これは人間と同じだなあと考えている洪自誠さんの姿が思い浮かびました。この比喩に気づいたときに、「キタッ」と膝を叩いたのではないかと想像します。
器を1種類だけではなく、2種類を比喩した点、君子のあるべき姿を同じように2種類の例えにした点が、美しい文章の構成になっています。音ではありませんが、内容が韻を踏んでいます。
結 まとめ
指導的立場にある人は、満ち足りた状態(物欲)を求めてはいけないし、不完全なものがあってこそ完全なものがあるという道理を理解すべきです。